歯の後遺障害とは?認定基準と請求できる慰謝料について徹底解説
交通事故時に、顔面に衝撃を受けると歯が損傷することがあります。場合によっては歯が折れたり、無くなったりすることも珍しくありません。また、事故後に治療を実施しても後遺障害に悩まされることもあります。それまで、できていた労働ができなくなるケースもあるので深刻な問題に発展する危険性があることを理解しておかなければいけません。
では、このような場合、後遺障害認定はされるのでしょうか?後遺障害認定を受けると、慰謝料や逸失利益を請求できる可能性があるので、これは非常に大きな問題です。
今回は、歯の後遺障害について詳しく解説します。今回の記事を読めば、事故により歯の後遺障害が生じた場合の認定基準が分かるだけでなく、後遺障害に関する注意点やポイントが分かるので、事故で歯を損傷された方や、近しい方が事故に巻き込まれて歯を損傷している場合は、ぜひご一読ください。
事故時の代表的な歯の損傷
交通事故時の代表的な歯の損傷には下記のものがあります。
・欠損
・ひび割れ
まずは、それぞれの状態について詳しく見ていきましょう。
歯の欠損
欠損とは、歯の一部または全部を失った状態を指す言葉で、欠けたり抜けたりした場合が該当します。事故によっては、歯が抜けてしまうケースも珍しくありません。この時、大切になるのが抜けた歯を保存することです。ここでの対応によっては、再植手術で抜けた歯を元の位置に戻せる可能性があるため、緊急時の対応として覚えておきましょう。
まず、大切になるのが歯を乾燥させないことです。抜けた歯を見つることができたら、牛乳や生理食塩水に浸けて保存してください。もし、牛乳や食塩水を用意できない場合は、ラップで包むか、飲み込まないように注意しながら口の中で保管します。
その後は、できる限り早く歯科医院を受診してください。再植手術の成功率は保存状態と、どれくらい時間が経過しているのかによって決まるため、迅速な行動が求められます。
ひび割れ
交通事故で顔面に強い衝撃を受けると、歯のひび割れが起こる可能性もあります。歯のひび割れを放置すると、歯周病や感染症のリスクが高まるので注意しなければいけません。また、ひび割れから神経に影響がでたり、歯が変色したりする危険性もあるので、ひび割れが発生した場合は必ず歯科医院を受診してください。大切なのは早期受診です。ひどい痛みがなくても少しでも違和感があるときや、事故時に顔面に衝撃を受けた場合は歯科医院を受診しておきましょう。
歯科補綴の基礎知識
事故で歯を損傷して歯科医院を受診した場合、必要に応じた治療が実施されます。この時、歯の状態によって実施されるのが歯科補綴です。歯科補綴とは、むし歯や外傷などにより失われた歯の機能や見た目を人工物で補う治療のことで代表的なものとしてはクラウン、ブリッジ、入れ歯、インプラントが存在します。
ここからは、歯科補綴の基礎知識として歯科補綴の種類と歯科補綴における留意点を見ていきましょう。
歯科補綴の種類
先程も紹介した通り、歯科補綴の代表的な種類には下記のものがあります。
クラウン
ブリッジ
入れ歯
インプラント
まずは、それぞれの種類について詳しく見ていきましょう。
・クラウン
クラウンは、一般的にも知られている被せ物のことで歯の修復において多く使用されています。主な素材には金属やセラミック、レンジがあり、見た目や耐久性に応じて選択されるのが特徴です。
・ブリッジ
ブリッジとは、隣接する健康な歯で固定して損傷した歯を補う人工歯です。複数のクラウンを連結して作成することで、噛む機能や見た目の改善を図る方法です。
・入れ歯
入れ歯は、取り外し可能な人工歯です。歯が失われてしまった場合に選択されることが多くなります。
・インプラント
インプラントとは、顎骨に埋め込む人工歯のことです。埋め込んだ人工歯のうえにクラウンを装着して自然な見た目と機能を持ち合わせるだけでなく、長期間の使用も可能です。
上記の4つが代表的な歯科補綴の種類です。どれを選ぶのかは、状況や口腔内の状態によって変わるため、歯科医院と相談したうえで判断する必要があります。
歯科補綴における留意点
歯科補綴においての留意点が、治療後のメンテナンスです。歯科補綴を実施して、歯の機能と見た目を改善した場合でも、定期的なメンテナンスは欠かせません。なぜなら、歯科補綴を実施しても、元の歯に戻ることはないからです。
口腔内の健康を維持していくためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。そのため、治療後にはどの程度の頻度でメンテナンスを実施する必要があるのかを歯科医師に確認しておきましょう。
歯の後遺障害
歯科補綴を実施しても、歯が元の状態に戻るわけではありません。なぜなら、欠けたり失ったりした天然歯が元に戻ることはないからです。だからこそ、歯の後遺障害について理解しておかなければいけません。
ここからは、歯科補綴に関連する後遺障害について詳しく紹介していきます。
歯牙障害
交通事故で歯を失うと「歯牙障害」として後遺障害認定される可能性があります。歯牙障害とは、歯が著しく欠損したことで歯科補綴を実施した状態のことで、何本の歯で実施したかによって判定されます。
歯科補綴によって機能や見た目、能力が修復されても後遺障害認定されるので、その点を忘れないでください。
詳しい等級は下記の通りです。
後遺障害 | 等級 |
3歯以上に対し歯科補綴を加えた場合 | 14級2号 |
5歯以上に対し歯科補綴を加えた場合 | 13級5号 |
7歯以上に対し歯科補綴を加えた場合 | 12級3号 |
10歯以上に対し歯科補綴を加えた場合 | 11級4号 |
14歯以上に対し歯科補綴を加えた場合 | 10級4号 |
なお、上記の表に記載されている通り、後遺障害等級は3歯以上からとなっているため、1歯や2歯の場合は後遺障害に該当しないことを覚えておきましょう。
言語機能障害
言語障害とは、交通事故が原因で起こった歯の損傷により、言葉をうまく発音できなくなったり、言葉での意思疎通が困難になったりした状態のことです。等級認定では、発音できる語音の数や障害の程度に応じて判断されます。歯を失った場合や顔の骨が骨折すると、舌の動きや口の動きが制限されるケースがあり、これにより言語機能に障害が残ることがあるのです。言語機能障害における等級認定は細かく定められているので、専門医に相談したうえで判断してもらう必要があります。
なお、等級については次章の咀嚼機能障害と共に記載しておりますので気になる方は確認してください。
咀嚼機能障害
咀嚼機能障害とは、ものを噛む機能に障害が残る状態を指します。歯が欠損すると、不正咬合や顎関節の障害がでてくることで流動食しか食べられなくなる場合や、固い食べ物を十分にかみ砕くことができなくなることがあります。これにより、食べられるものの種類が限定されたり、固形物が食べられなくなったりすることがあるのです。このような場合は、咀嚼障害で後遺障害の認定を受けられる可能性があります。ただし、咀嚼障害の認定を受けるには、後遺障害診断書や歯科専用の診断書、画像検査等の医学的な証拠が必要になるので、早めに病院に行き診断してもらうようにしてください。
言語機能障害と咀嚼機能障害の等級は下記の通りです。
症状 | 等級 |
咀嚼又は言語の機能に障害が残った場合 | 10級3号 |
咀嚼及び言語の機能に障害が残った場合 | 9級6号 |
咀嚼又は言語の機能に著しい障害が残った場合 | 6級2号 |
咀嚼及び言語の機能に著しい障害が残った場合 | 4級2号 |
咀嚼または言語のどちらか一方の機能を廃した場合 | 3級2号 |
咀嚼と言語の機能を廃した場合 | 1級2号 |
なお、症状の状態については下記を参考にしてください。
言語機能に障害を残す:4種の発音のうち1種を発音できなくなった状態
咀嚼機能を廃した:流動食しか摂取できない状態
咀嚼機能に著しい障害を残す:お粥程度のものしか食べられない状態
咀嚼機能に障害を残す:固いものを食べられない状態
言語機能を廃した:人間の発する4種類の発音のうち3種以上発音できなくなった状態
言語機能に著しい障害を残す:4種の発音のうち2種の発音ができなくなった場合。または綴音の機能に障害があり言葉のコミュニケーションをとりにくい場合
歯の後遺障害に関する注意点
前章では、歯の後遺障害の種類と等級を解説してきました。上記を確認して当てはまっていた場合は、基本的に認定の対象となる可能性が高くなります。ただし、いくつか注意しなければいけないポイントもあります。
ここからは、歯の後遺障害に関する注意点を詳しく見ていきましょう。
すべての歯が後遺障害の対象になるわけではない
歯の後遺障害と聞くと、多くの方はすべての歯が対象になると思われるでしょう。しかし、認定対象とならない歯も存在します。それが、乳歯や親知らずです。
例えば、歯科補綴した歯が後遺障害等級である3歯以上あっても、1歯が乳歯や親知らずの場合は実質2歯となるので、該当しないことになります。
また、交通事故前に欠損していた歯やむし歯が進行している歯も基本的には対象外となるので注意してください。ただし、明らかに交通事故による欠損や喪失が認められた場合は、その限りではありません。そのため、安易に自己判断しないことも大切です。
補綴歯数に算入されないもの
乳歯や親知らず以外にも、補填歯数に算入されないものがあります。それが、有床義歯や架橋義歯の支台冠、鈎の装着歯、ポスト・インレーを行った歯です。これらの歯は現実に喪失もしくは著しく欠損したとは認められないため、補填歯数に含まれません。
補填は、基本的に天然の歯を人工物で補う行為を指します。そのため、基本的には義歯は含まれないことを覚えておきましょう。
歯牙欠損数と義歯数が異なるケースの考え方
治療によっては、歯牙欠損数と義歯数が異なることがあります。分かりやすい事例では、2歯の喪失に対して3本の義歯を補填した場合です。このような場合、多くの方は3本の義歯を補填したのだから、3歯を基準として等級が決まると思うでしょう。しかし、等級は喪失した歯を基準に決められます。そのため、この例の喪失数は2歯となるので後遺障害に該当しません。
この点を勘違いしてしまうと、認定されると思っていたケースで認定を受けられないことがあるので、気を付けてください。
歯の部分欠損や神経治療の取り扱い
ここまで読まれた方の中には、歯の部分欠損や神経治療は後遺障害として認定されないと心配された方もいらっしゃるかもしれません。しかし、歯の部分欠損や神経障害の治療も後遺障害として認定されるケースがあります。
中でも、歯冠部体積の4分の3以上を欠損した場合や、神経が切断してしまった場合は後遺障害として認定される可能性が高くなるので、該当する可能性がある場合は速やかに専門家に相談しましょう。なお、医師とのやり取りに不安が残る場合は、弁護士に依頼するのも選択肢の1つです。
弁護士に依頼することで、プロのアドバイスを受けられるだけでなく、自分でも見落としていた部分に気付かせてもらえる可能性があるので、少しでも不安がある方は早めに弁護士への依頼を検討しましょう。
歯の後遺障害認定におけるポイント
歯の後遺障害認定においては、いくつか理解してかなければいけないポイントもあります。その1つが歯牙障害の加重障害です。既に歯科補填を実施していた場合でも、事故による欠損により新たな補填が必要になることがあります。これが、歯牙障害の加重障害です。
交通事故により歯が欠損した場合、事故前の既存の障害と合計して、より上位の後遺障害等級に該当する場合は加重障害と認定されます。等級は後遺障害慰謝料に大きく関わることなので、気になる場合は必ず専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
このように、後遺障害認定においては複数の要素が組み合わさることも珍しくないので、正当な後遺障害慰謝料を請求するためにも専門家の意見は欠かせません。中には費用を心配される方もいらっしゃいますが無料相談を実施している弁護士事務所や法律事務所も存在するので、少しでも不安が残る場合は気軽に電話して問い合わせてみましょう。
なお、等級ごとの慰謝料の相場一覧は下記の通りです。
等級 | 慰謝料の相場 |
1級 | 2,800万円程度 |
2級 | 2,370万円程度 |
3級 | 1,990万円程度 |
4級 | 1,670万円程度 |
5級 | 1,400万円程度 |
6級 | 1,180万円程度 |
7級 | 1,000万円程度 |
8級 | 830万円程度 |
9級 | 690万円程度 |
10級 | 550万円程度 |
11級 | 420万円程度 |
12級 | 290万円程度 |
13級 | 180万円程度 |
14級 | 110万円程度 |
まとめ
交通事故により歯を欠損すると後遺障害が残ることも珍しくありません。ただし、このような場合は後遺障害認定されることで慰謝料や逸失利益を請求できる可能性が高まります。
しかし、後遺障害の等級は細かく定められているので、自分だけで判断するのは非常に難しいのが現実です。また、すべてを自分で対応するとなると煩雑な手続きや書類集めによって解決までに少なくないストレスを抱えることになります。さらに、相手側の保険会社とのやり取りも発生するので想像以上に大変です。被害者であるにも関わらず事故後の対応によって大きなストレスを抱えることになることも考えられます。
このようなストレスから解放される手段が専門家でもある弁護士への依頼です。弁護士に依頼すると、基本的に自分が動く必要がなくなるため、ストレスから解放され治療に専念することができます。
余計な労力や心労を避けるうえでも、事故に巻き込まれた場合は早めに弁護士への依頼を検討しましょう。
この記事の監修者

弁護士法人i 代表弁護士
黒田 充宏
開業以来、地元市民の皆様から交通事故に関する多数の相談を受けて参りましたが、残念なのは簡単なアドバイスで解決できることにもかかわらず、ずっと一人で悩んでおられる方が多数いらっしゃるということです。相談後に「誰にも話せずに悩んでいたけれども、もっと早く相談に来ればよかった」と仰る依頼者の方が意外と多いものです。特に交通事故に関するご相談では、「もう少し早く相談してくれれば、適切なアドバイスができたのに」と思うことが多々あります。交通事故の法的トラブルについては、時機を失うと大きな損失につながる可能性があります。「こんなことで相談してもよいのかな」と心配する必要はありません。当事務所では、経験豊富な弁護士がいつでもお待ちしております。身近な町医者として、今後とも精進する所存ですので、困ったときにはいつでもご相談ください。


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