交通事故による醜状の後遺障害:認定基準、慰謝料、解決策を徹底解説
交通事故の被害で顔に傷(醜状)ができてしまったら、「後遺障害」を確認する必要があります。
後遺障害の有無によって得られる慰謝料金額が異なるからです。
この記事では、交通事故で醜状が残ってしまった被害者の方に向けて、後遺障害の基本的な情報や慰謝料の請求方法を解説します。
特に顔面や頭部といった「外貌」に傷があるケースを念頭に、被害者が必ず知っておきたい情報をご案内しますので、ぜひ参考にしてください。
醜状の後遺障害とは?
醜状(しゅうじょう)とは、事故や手術によって顔や体に残った傷跡や色素変化のことです。
〈醜状の具体例〉
- 切り傷や擦り傷が治癒した後に残る瘢痕(はんこん)
- 手術後に残る手術痕
- やけどが治った後の赤みや凹凸
- 骨折等による顔面の変形
- 事故による欠損(耳や鼻の一部など)
- 顔面神経麻痺による表情の変化
醜状は主に「外貌(がいぼう)の醜状」と「外貌以外の醜状」に分類できます。
外貌の醜状
顔面、頭部、頚部(首)など、通常は衣服で隠れない部分の醜状を指します。
日常生活で人目に触れやすく、社会生活に影響を与えやすいため、後遺障害等級の認定では比較的高い等級が認められる傾向があります。
外貌以外の醜状
上肢(腕や手)や下肢(脚や足)など外貌以外に生じた醜状を指します。
外貌以外に生じた醜状も後遺障害として認定される可能性がありますが、外貌の醜状と比較すると等級は低くなることが一般的です。
醜状の後遺障害で主に問題となるのは「外貌の醜状」についてです。
また、外貌醜状は労災よりも事故、特に交通事故で生じやすい傾向があります。
そこで本記事では、交通事故に起因する外貌醜状の後遺障害を念頭に解説します。
交通事故で生じやすい外貌醜状の特徴
交通事故で生じる醜状には「顔面や頭部の損傷が多い」という特徴があります。
これは衝突時にフロントガラスやハンドルに顔や頭が接触しやすいからです。
また、エアバッグによる火傷や擦過傷、打撲も交通事故に特有の醜状を引き起こします。
以下、身体の露出面とそれ以外の部位に分けて、交通事故で生じやすい醜状の特徴をあげます。
露出面の醜状
〈顔面の傷跡〉
- フロントガラスやハンドルとの衝突による裂傷
- エアバッグ展開による擦過傷や火傷
- 衝突時の打撲による変形
〈頭部の傷跡〉
- 頭部打撲による傷跡
- 頭部手術(開頭手術など)による手術痕
- 事故による脱毛部分
〈頚部(首)の傷跡〉
- シートベルトによる擦過傷や圧迫痕
- むち打ち症治療のための手術痕
- 事故による頚部の変形
露出面以外の醜状
〈上肢(腕・手)の傷跡〉
- ガラス片による切創の痕
- 車外放出時の擦過傷の跡
- 骨折手術後の瘢痕
〈下肢(脚・足)の傷跡〉
- ダッシュボードとの衝突による傷跡
- 車両からの脱出時の擦過傷
- 骨折手術後の瘢痕
外貌醜状による後遺障害の認定基準
外貌醜状を理由に慰謝料を得るためには、その醜状が後遺障害と認定される必要があります。
外貌醜状の場合、身体機能に障害はありません。
そのため、後遺障害として認定されるためには一定の条件をクリアする必要があります。
外貌醜状が後遺障害として認定されるための主な条件は以下のとおりです。
- 症状が固定しており、治療を続けても回復が見込めない状態であること。
- 一時的変化ではなく、将来にわたって残り続ける状態であること。
- 社会生活に影響を与えるような、一定以上の大きさや目立ちやすさがあること。
交通事故に起因する外貌醜状の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令・別表第二にしたがい、次の3段階の基準で区別されます。
【外貌醜状による後遺障害の認定基準】
第7級12号:外貌に著しい醜状を残すもの
第9級16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの
第12級14号:外貌に醜状を残すもの
後遺障害の認定にあたっては、外貌醜状を医師が診断し、どの等級の認定基準に該当するかを判断します。
醜状障害の後遺障害認定の流れ
外貌醜状が後遺障害に認定されるためには、医師による診断と申請手続きが必要です。
以下、大まかな流れを説明します。
医師による診断と必要書類の準備
負傷した箇所を医師が診察し、外貌醜状の状態や後遺障害の有無を確定的に診断します。
医師による診断で作成する主な書類等は以下のとおりです。
- 後遺障害診断書(医師が作成)
- 診療記録(傷が固定するまでの経過を示すために必要)
- 写真(傷の痕の状態が明瞭にわかるもの)
- 精神的影響の証明書類(精神科の診断書等)
任意保険会社または自賠責保険会社へ申請
醜状の後遺障害として等級認定してもらうためには、所定の手続きによる申請が必要です。
申請するルートは、「事前認定」と「被害者請求」があります。
事前認定
加害者が加入している任意保険会社が必要書類を集め、申請手続きを進めます。被害者自身が行うべき手続きはほとんどありません。
事前認定の場合、慰謝料の金額は「任意保険基準」で決まります。
これは自賠責基準よりもわずかに高額となるものの大差はありません。
また、必要書類の収集や申請手続きは全て加害者側の任意保険会社が行うため、被害者側からすると「書類の内容が適切か判断できない」「進捗状況がわからない」といったデメリットがあります。
被害者請求
被害者(またはその代理人)が必要書類を集め、自分が加入している自賠責保険会社を通じて申請手続きを進めます。
被害者請求を通じて認定される慰謝料は、自賠責基準の金額です。
後述するように、自賠責基準の慰謝料は最も少額になるため、「被害者救済」という点からは満足できない可能性があります。
外貌醜状の後遺障害に対する慰謝料の金額
外貌醜状の後遺障害に対する慰謝料の金額は、適用基準が「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」のいずれであるかによって大きく異なります。
任意保険基準は保険会社ごとに違いがあり、また自賠責基準の金額よりわずかに大きいだけです。
そこで以下では、自賠責基準と弁護士基準を比較します。
自賠責基準に基づく慰謝料
自賠責基準に基づく慰謝料は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」によって具体的に定められています。
〈自賠責基準の慰謝料〉
7級:419万円
9級:249万円
12級: 94万円
自動車交通事故が原因で後遺障害が残った場合、前述した外貌醜状による後遺障害の認定条件および認定基準に該当するかぎり、誰でも同じ金額の慰謝料を国に対して請求できます。
ただし、自賠責基準が定める慰謝料は個別事情を考慮しない形式的な金額であるため、3つの基準の中では最も低い金額にとどまります。
したがって、示談交渉や裁判で慰謝料を請求したいときは、次に説明する弁護士基準を使うのがセオリーです。
弁護士基準(裁判基準)に基づく慰謝料
弁護士基準の慰謝料は、過去の裁判実務を参考にしているため「裁判基準」とも呼ばれます。
〈弁護士基準の慰謝料〉
7級:1000万円
9級: 690万円
12級: 290万円
弁護士基準は、被害者・加害者の個別事情をふまえた実際の裁判例をベースにしています。
そのため、最低ラインである自賠責基準の慰謝料よりもかなり高額になっています。
弁護士基準の慰謝料を得るためには、後遺障害の問題解決に詳しい弁護士のサポートが欠かせません。
自賠責基準で請求するよりも時間はかかりますが、実際の損害をカバーできるだけの慰謝料を得たいのであれば、弁護士に相談するのがおすすめです。
後遺障害の慰謝料の計算で考慮する要素
外貌醜状をふくむ後遺障害の慰謝料を計算する場合、以下の要素が考慮されます。
〈基本となる後遺障害等級〉
- 認定された等級に基づく慰謝料金額
〈個別的な増額要素〉
- 被害者の年齢(若年層ほど高額になる傾向)
- 被害者の職業(接客業など外見が重要な職業は増額)
- 醜状の目立ちやすさや社会生活への影響度
〈その他の考慮要素〉
- 加害者の過失の程度(飲酒運転や速度違反など悪質なケースでは増額傾向)
- 事故後の加害者の対応(示談交渉を渋るなど不誠実な態度を見せると増額傾向)
- 被害者の過失割合
このように、後遺障害等級ごとの慰謝料金額をベースに、個別の増額要素や加害者の事情などを足し引きして最終的な慰謝料を計算します。
後遺障害の慰謝料の計算は複雑かつ専門的なので、被害者が独力で対応すると適切な慰謝料が得られないおそれがあります。
満足できる慰謝料を得たいのであれば、交通事故や慰謝料の実務に詳しい弁護士にサポートしてもらいましょう。
外貌醜状の影響は性別によって差はあるか?
2011年以前は、外貌の醜状について「女性の場合は男性より上の等級を認める」という運用がなされていました。これは、社会通念上、女性の方が外見による影響が大きいとの考えに基づくものです。
この男女別の基準を「憲法違反である」としたのが、京都地裁平成22年5月27日判決です。
同判決は「外貌醜状について男女で著しい等級の差を設けることは法の下の平等(憲法第14条)に反する」と断じました。
本判決をきっかけに後遺障害等級の改訂が行われました。
〈改訂前の等級〉
第7級12号 女子の外貌に著しい醜状を残すもの
第12級14号 男子の外貌に著しい醜状を残すもの
第12級15号 女子の外貌に醜状を残すもの
第14級10号 男子の外貌に醜状を残すもの
〈改訂後の等級〉
第7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
第9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
第12級14号 外貌に醜状を残すもの
ご覧のとおり、改訂後の等級では「女子」「男子」という区別が削除されました。
そのため現在では、性別の違いは外貌醜状の後遺障害の認定に影響しないとされています。
ただし、裁判実務において性別が全く考慮されなくなったわけではありません。
裁判所が後遺障害による慰謝料を算定する場合、性別・年齢・職業・社会的立場など総合的な観点から醜状の影響を評価するからです。
たとえば、モデル業の若い女性の外貌にひどい醜状が生じたような場合は、精神的苦痛に加えて、職業選択の幅が著しく狭まったことを理由に、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
外貌醜状の後遺障害が職業や社会生活に与える影響
外貌醜状の後遺障害が被害者の職業や社会生活に与える影響は軽視できません。
実際にどのような影響をもたらすのかを説明します。
職業への影響
外見が職業上重要な役割を果たす場合、外貌醜状の影響はかなり深刻です。
たとえば以下のような職業では、外貌醜状があるために職業選択の幅が狭くなり、収入を得る機会が減少します。
〈接客業〉
受付係、フロントスタッフなどの接客業では、顧客に与える第一印象が重視されます。
接客時の印象がマイナスだとリピートしてもらえなくなるからです。
そのため、接客業に従事するスタッフにひどい外貌醜状がある場合、雇用者の判断で配置転換を指示されることも考えられます。
〈営業職〉
接客業ほどではありませんが、営業職も外見が第一印象に影響する職業です。
顔面の広範囲に深い傷跡がある営業マンが飛び込みでセールスを試みても、初対面だと強く警戒されてしまうため、なかなか成約まで至らないおそれがあります。
〈美容関連の職業〉
美容師、メイクアップアーティスト、エステティシャンなど美容関連の職業では、顧客はサービスを提供する側に相応の美的感覚を求めるものです。
そのため、外貌醜状の有無が就職率に影響する可能性があります。
〈モデル・俳優などの芸能関係〉
モデルや俳優のように外見が商品の一部とみなされるような職業では、外貌醜状があると仕事の依頼や報酬に悪影響を及ぼします。
たとえば化粧品広告のモデルは、交通事故で顔面にひどい醜状ができてしまうと、新たな仕事の依頼は見込めなくなるでしょう。
社会生活への影響
職業だけでなく、日常の社会生活においても外貌醜状は様々な影響を与えます。
〈対人関係の構築が困難になる〉
ひどい外貌醜状があると、他人の視線が強いストレスとなるため、特に初対面の人との関係構築が難しくなるおそれがあります。
〈うつ病等を発症するリスクがある〉
外貌醜状によって外見に対する自信を著しく喪失すると、イライラや気分の落ち込みが長期間続くため、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症するリスクがあります。
〈行動範囲が制限される〉
外貌醜状を注目されることが「恐怖心」につながると、人前に出ることへの不安が募り、公共の場に出ることや趣味・レジャー活動を躊躇するようになります。
以上のような職業上・社会生活上の影響は、後遺障害にもとづく慰謝料や逸失利益の算定において考慮すべき要素となります。
特に職業上の影響は生涯収入の大幅な減少にもつながるため、慰謝料等を請求する際は必ず考慮しなければなりません。
適切な慰謝料を請求するためには証拠が重要です。
弁護士の助言を受けながら、外貌醜状がもたらした具体的な影響を客観的に示す証拠(雇用主からの証明書、収入減少の記録、精神科医の診断書など)を漏れなく収集しておきましょう。
慰謝料の増額ポイントと増額に成功した事例
醜状の後遺障害を理由に事故の加害者等に慰謝料を請求する場合、期待したような金額に至らないこともあります。
そこで以下では、醜状障害で慰謝料請求する際に、増額にプラスに働くポイントを解説します。
当事務所が受任した事件で慰謝料増額に成功した事例も紹介するので参考にしてください。
慰謝料の増額ポイント
交通事故による醜状の後遺障害慰謝料を増額するためには、以下のポイントが重要です。
弁護士に依頼する
慰謝料請求は、独力や保険会社任せは避け、交通事故や後遺障害に詳しい弁護士に依頼しましょう。相手方との交渉力が大幅に向上するので、慰謝料の増額が期待できます。
被害者側の個別情報を漏れなく提示する
事故による心理的苦痛や生活への具体的な影響など、慰謝料算定に影響しうる個別情報は漏れなく収集し、弁護士に提示しましょう。
外貌醜状が就職率や業務評価に影響する職業の場合その旨を強調すること、実際に生じたマイナスの影響があればその事実も援用することも、慰謝料増額のポイントです。
加害者側の行為の悪質性をチェックする
加害者側の行為態様が悪質である場合、慰謝料が増額される可能性があります。
後遺障害の事件に詳しい弁護士であればまず心配無用ですが、念のため被害者自身も以下の点をチェックするといいでしょう。
- 酒酔い運転
- 速度違反
- 事故後の救護義務違反
- 謝罪の有無
- 不誠実な示談交渉の態度
慰謝料増額の成功事例
最後に、当事務所が受任した交通事故事件の中から、慰謝料増額に成功した事例をご紹介します。
「加害者の行為の悪質さ」と「怪我の大きさ」が考慮され、慰謝料増額に至った事例
〈事故の状況〉
- 相談者がバイクで走行中、青信号で交差点に侵入したところ、加害者が赤信号を無視して交差点に進入して衝突。
- 加害者は、相談者を救護しないまま逃走。
- 相談者は、12級14号の外貌醜状および高次脳機能障害を負った。
〈結果〉
- 相手方の保険会社は賠償金1200万円提示(自賠責基準を採用して最低限の慰謝料を提示)。
- 交渉の結果、3100万円で和解成立(158%増額)。
〈増額に至った背景〉
- 信号無視やひき逃げという加害者の行為の悪質性に加えて、加害者が虚偽と思われる主張をしたので、刑事記録を取り寄せ、加害者のウソと事故態様の悪質さを明らかにした。
- 相談者が未婚女性であること、仕事内容などを考慮すべきであること等をふまえて、他の裁判例と比較しつつ適正な慰謝料、逸失利益を主張した。
後遺障害がなかったにもかかわらず、被害者(接客業に従事する20代女性)の事情を説明し、慰謝料増額に成功した事例
〈事故の状況〉
- 相談者が自動車を運転中、緩やかなカーブに差し掛かったところ、対向車線から相手方が運転する自動車がカーブを曲がることなく直進してきたため衝突。
- 相談者は、顔面(おでこ)および首・腰・膝を負傷した。
- 後遺障害は生じていない。
〈結果〉
- 150万円で示談(当初金額よりわずかに増額)。
〈増額に至った背景〉
- 相談者は、飲食店にて肌を露出する衣装を着用して接客する職業に従事。
- 今回の事故で負傷した「膝」は、一般的には「露出面」とは言えない。しかし、仕事で丈の短い衣装を着用していたことから、相談者にとっては「露出面」とみなされる特別の事情があった。
- おでこと膝の傷を隠すために、「髪を下ろす」「露出の少ない衣装に変更する」などを余儀なくされた。
- 弁護士は、相談者の事情を相手方保険会社に説明し、通常の慰謝料よりもやや多い慰謝料を提案し、認められた。今回のように後遺障害が生じていないケースでも、被害者に固有の特別な事情があれば、交渉次第で慰謝料の増額は可能。
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事故の相手方に対しては慰謝料や逸失利益を請求できる場合があります。
しかし、保険会社が提示する金額が適切かどうか、自己判断は難しいのが現実です。
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