自営業者が交通事故に遭ったら休業損害はどうなる?計算方法や注意点とは
交通事故で受傷し、仕事を休まざるを得なくなった場合、被害者は加害者側に対して「休業損害」を請求できます。会社員であれば勤務先が発行する「休業損害証明書」をもとにスムーズに請求できますが、自営業者(フリーランス、個人事業主)の場合は、収入の証明方法や算定基準が複雑になりがちです。
そこで本記事では、自営業者が交通事故に遭った際の休業損害の考え方や必要書類、請求時に注意すべきポイントについて詳しく解説します。
自営業者が交通事故に遭ったら休業損害は請求できる?
自営業者が交通事故に遭った場合でも、会社員と同様に休業損害を請求することができます。ただし、請求時には事前に押さえておきたいポイントがあります。本章では休業損害の概要や請求が難しいとされる理由をわかりやすく解説します。
休業損害とは
休業損害とは、交通事故によるケガの治療のために仕事を休んだこと、あるいは仕事の能率が落ちたことによって生じた収入の減少分を意味する言葉です。
休業損害は入通院によって本来得られたはずの収入が得られなかった場合に、その差額を加害者側(多くの場合は加害者が加入する任意保険会社)に請求できます。
自営業者でも休業損害は請求できる
「休業損害は給与所得者だけのもの」と誤解されることがありますが、自営業者や個人事業主、フリーランスであっても休業損害を請求することは可能です。休業損害は雇用形態を問わず、事故によって現実に収入が減少した、あるいは減少する見込みがあったことに対する補償であるため、専業主婦や事業主であっても対象となります。
休業補償との違い
「休業損害」とよく似た言葉に「休業補償」があります。両者は混同されがちですが、法律上の根拠や支払われる場面が異なります。
休業補償とは、労災保険(労働者災害補償保険)に基づき、業務中や通勤中の事故によりケガをした労働者に対して支払われる給付のことを指します。労災保険からの給付であるため、原則として雇用されている労働者が対象であり、自営業の方々は労災保険の対象外です(ただし、一人親方が特別加入をしている場合は利用できます)。
一方の休業損害は、交通事故の加害者に対する損害賠償請求の一項目であり、民法上の不法行為責任にもとづいて、加害者側に請求するものです。雇用形態を問わず、事故によって現実に収入が減少した被害者であれば、会社員・自営業者等を問わず請求の対象となります。
自営業者が休業損害の請求が難しいとされる理由
自営業者の休業損害請求が会社員よりも難しいとされる主な理由は、収入の証明方法にあります。会社員であれば勤務先から発行される休業損害証明書によって、事故前の収入や休業日数を客観的に示すことが可能です。
自営業者の場合は、日々の売上や業務量に変動があるため、事故によってどれだけ収入が減少したのかを客観的に証明することが容易ではありません。確定申告の内容や帳簿の記載が不十分な場合、実際の減収を裏付ける資料が乏しくなりやすく、保険会社との交渉が難航しやすい点が、自営業者にとってのハードルとなっています。
自営業者が休業損害を請求する流れ
自営業者が事故で受傷した後、実際に休業損害を受領するまでの流れとは、一体どのようなものでしょうか。休業損害は生活を支える重要なお金となるため、流れに沿って適切に請求を行うことが欠かせません。そこで、本章では休業損害の請求を各ステップ順番に解説します。
受傷後は治療に専念する
交通事故で受傷された場合は治療を最優先し、医師の指示に従って入院・通院を継続することが重要です。自己判断で通院を中断したり、痛みを我慢して無理に働いたりすると、休業の必要性そのものが疑われ、休業損害が適切に認定されない可能性があります。
仕事の都合が気になる自営業者の方は多いですが、まずはケガを治すことを優先しましょう。また、通院の頻度や治療内容は、後の休業損害の算定において「どの程度休業が必要だったか」を判断する重要な材料になります。医師には自覚症状を正確に伝え、通院を継続する記録を残しておくことが大切です。
加害者側保険会社へ休業損害の必要書類を提出する
治療と並行して、休業損害を請求するための書類を準備し、加害者側の任意保険会社へ提出します。自営業者の場合は、後述する確定申告書の控えや帳簿類、収支を示す資料など、通常の会社員よりも収入状況を証明するために多くの資料を求められることが一般的です。
書類の内容によって休業損害の金額が大きく左右されるため、何をどこまで提出するかは慎重に検討する必要があります。
保険会社側と示談交渉を行う
必要書類を提出すると、保険会社側は独自の基準で休業損害額を算定し、示談案を提示してきます。しかし、保険会社が提示する金額は、必ずしも被害者にとって適正な金額とは限りません。特に自営業者の場合、保険会社は確定申告書上の所得金額のみを基準に低い金額を提示してくることが少なくありません。
提示された金額に納得できない場合は、実際の収入状況や業務の実態を示す資料をもとに、増額を求めて交渉することが可能です。
被害者側へ保険金が支払われる
示談交渉がまとまると、合意した内容に基づいて休業損害を含む損害賠償金が支払われます。休業損害単体で先に支払われるのではなく、治療終了後にその他の損害項目(治療費、慰謝料など)とあわせて一括で支払われる形も多いですが、物損(車両等の損傷)が先行して支払われるなどのケースも少なくありません。
治療が長期化しそうな場合はどうする?
治療が長期にわたる見込みがある場合、示談成立まで待っているとその間の生活資金に窮してしまうことも考えられます。
休業損害は、必ずしも治療終了後の示談時にまとめて請求しなければならないものではありません。治療が長期化する場合は、一定期間ごとに相手方保険会社から休業損害を先払い(内払い)してもらうことが可能です。先に休業損害の支払いを受けた場合、最終的な示談交渉時に既払い分は控除されます。
自営業者が休業損害を請求する際に必要な書類とは
会社員よりも複雑な請求となりやすい自営業者の休業損害ですが、請求にあたってはどのような書類が必要となるでしょうか。自営業者の休業損害請求では、収入を証明するための書類が会社員よりも多くなるため、早めに準備を進めましょう。詳しい必要書類は以下です。
確定申告書の控え
自営業者が休業損害を請求する際、最も基本となる資料が確定申告書の控えです。事故前年(収入に大きな変動がある場合などは過去数年分)の確定申告書によって事故前の所得水準を示し、基礎収入を算定する根拠とします。
青色申告か白色申告かによって添付される書類の内容も異なるため、手元にある申告書一式を保険会社へ提出します。
帳簿や請求書など(前年との売り上げ比較に利用できる書類)
確定申告をしていなかったケースなどでは、事故後の休業期間中に実際にどれだけ売上が減少したのか証明できないため、帳簿や売上帳、請求書や預貯金通帳の写し、領収書の控えなど、前年同時期の売上と事故後の売上を比較できる資料を用意し実態に即した休業損害の請求を行います。
医師の診断書や入通院内容がわかる領収書
休業の必要性やその期間を裏付けるために、医師の診断書や、通院日・入院日が分かる領収書、診療報酬明細書なども必要です。これらの資料により、いつからいつまで、どの程度の頻度で通院・休業していたのかを客観的に示すことができます。
通院に関する交通費はどうなる?
通院のためにかかった交通費は、休業損害とは別の損害項目として請求することが可能です。公共交通機関を利用した場合は実費相当額、自家用車を利用した場合はガソリン代や駐車場代などが対象となり得るため、領収書などを保管しておくことが大切です。
固定経費は加算できる?
事業を休業していても、事業の維持に発生する固定経費は継続して発生することが多いでしょう。事務所光熱費や家賃、従業員の人件費といった固定経費は休業中に事業を維持するために必要な支出として、一定の範囲で損害に含められる場合があります。保険会社側が固定経費を考慮せずに示談交渉をしてくるケースもあるため、主張できるように準備しておきましょう。
休業損害時の注意点とは
自営業者が休業損害を請求するにあたっては、押さえておきたい注意点があります。特に休業損害は途中で打ち切られる可能性があるため、慎重に判断することが必要です。本章では4つの注意点をわかりやすく紹介しますので、ご一読ください。
休業損害は打ち切られる場合がある
保険会社は、症状の程度や通院状況などをもとに、一定期間が経過すると「症状固定」として休業損害の支払いを打ち切ろうとすることがあります。症状固定とは、治療を続けてもこれ以上改善しないとする判断です。
むちうちなどの他覚所見に乏しいケガの場合、事故後比較的早い段階で打ち切りを打診されるケースも珍しくありません。ただし、保険会社側が打ち切りを通告しても、主治医が治療の継続が必要と判断する場合は安易に治療を終了せず、主治医の意見を踏まえて保険会社と交渉することが重要です。不安がある場合は早めに弁護士への相談も検討しましょう。
前年度が赤字だった場合
前年度の確定申告で赤字(所得がマイナス)となっていた場合、保険会社からは「そもそも収入がなかったのだから休業損害は発生しない」と主張されることがあります。しかし、赤字であっても事業を継続するための固定費が発生していたことや、実質的な収入があったことを示せれば、休業損害が認められる可能性は残されています。単純に赤字だからといって請求を諦める必要はありません。
前年度に確定申告をしていない場合
開業したばかりで前年度の確定申告をしていない場合や、そもそも確定申告自体を行っていなかった場合でも休業損害は請求可能です。このようなケースでは、通帳の入出金記録や取引先とのやり取り、請求書・領収書の控えなど、収入の実態を示せる資料を提出し、交渉に臨む必要があります。
過少申告をしていた場合
節税等の目的で、実際の所得よりも少ない金額で確定申告をしていた場合、申告額を基準に休業損害を算定されると、実際の減収に見合わない低い金額になってしまう可能性があります。保険会社との交渉では、原則として確定申告書の記載内容が基準とされるため、実態との乖離を主張することは容易ではありません。こうしたケースでは、専門家に相談しながら、慎重に対応方針を検討することが望ましいでしょう。
自営業の休業損害におけるよくある質問
自営業者の休業損害に臨む場合、不安を感じる方も多いでしょう。しかし、適切に書類を用意し、請求をする点でいえば問題なく支払われることも少なくありません。そこで、本章ではよくある質問をピックアップし、わかりやすくお答えします。
休業損害をもらえないケースを教えてください
休業損害が支払われない可能性があるケースは、主に以下のとおりです。
・休業の必要性が医学的に認められない
・休んでいなかった
・必要書類の不足
・事故と因果関係のある収入減少が確認できないなど
また、事故後も通常どおりの売上・所得を維持できていたことが資料上明らかな場合も、休業損害が否定されやすいため注意が必要です。
個人事業主ですが休業損害証明書は必要ですか?
休業損害証明書は、主に会社員が勤務先に作成してもらう書類であり、個人事業主自身が発行するものではありません。個人事業主の場合は、休業損害証明書の代わりに、確定申告書の控えや帳簿類など、収入や休業の実態を示す資料を提出して請求することになります
医師による症状固定後は休業損害をもらえませんか?
症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の大きな改善が見込めなくなった状態を指します。医師による症状固定後は、原則として休業損害ではなく、後遺障害等級が認定された場合の「逸失利益」として損害を検討することになります。そのため、症状固定日以降の休業損害は基本的に認められないのが原則です。
自営業者の休業損害に納得できない場合はどうする?
保険会社から提示された休業損害の金額に納得できないケースは少なくありません。保険会社は自社の算定基準(いわゆる保険会社基準)で低めの金額を提示することが少なくありません。
これに対して弁護士が介入すると、過去の裁判例をもとにした弁護士基準(裁判基準)での増額交渉が可能になります。特に自営業者は基礎収入の算定に幅が出やすく、両基準の差が大きくなる傾向があります。
示談交渉の場面では、保険会社の担当者と直接やり取りするよりも、弁護士に窓口を任せることで専門的な観点から適正な金額を主張しやすくなります。感情的な対立を避け、冷静に交渉を進められる点も大きなメリットです。
また、必要書類の準備や休業損害の計算方法も、増額の可否を左右する重要な要素です。資料の準備段階から弁護士に相談することも検討しましょう。
まとめ
自営業者が交通事故に遭った場合でも、休業損害を請求することは可能です。しかし、収入の証明方法や基礎収入の算定基準が会社員と異なり、確定申告の内容などによって、請求できる金額や交渉の難易度が大きく変わってきます。前年度が赤字だった場合や確定申告をしていなかった場合など、計算が難しいケースも少なくありません。
保険会社から提示された金額が適正かどうか自分では判断がつかない、あるいは十分な休業損害を認めてもらえずに困っている方は、一人で悩まずに交通事故の実績が豊富な弁護士へご相談ください。
この記事の監修者

弁護士法人i 代表弁護士
黒田 充宏
開業以来、地元市民の皆様から交通事故に関する多数の相談を受けて参りましたが、残念なのは簡単なアドバイスで解決できることにもかかわらず、ずっと一人で悩んでおられる方が多数いらっしゃるということです。相談後に「誰にも話せずに悩んでいたけれども、もっと早く相談に来ればよかった」と仰る依頼者の方が意外と多いものです。特に交通事故に関するご相談では、「もう少し早く相談してくれれば、適切なアドバイスができたのに」と思うことが多々あります。交通事故の法的トラブルについては、時機を失うと大きな損失につながる可能性があります。「こんなことで相談してもよいのかな」と心配する必要はありません。当事務所では、経験豊富な弁護士がいつでもお待ちしております。身近な町医者として、今後とも精進する所存ですので、困ったときにはいつでもご相談ください。
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